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役員報酬

読み: やくいんほうしゅう 

役員報酬とは、取締役、監査役、執行役などが、その職務の対価として会社から受ける財産上の利益です。毎月の固定報酬だけでなく、役員賞与、退職慰労金、株式、新株予約権なども含まれます。

従業員の給与と異なり、役員報酬は、報酬を受け取る役員自身が決定に関与し得るため、利益相反を防ぐ会社法上の手続が設けられています。会社法上有効に決定しただけでは、法人税法上すべて損金になるとは限りません。会社法、税務、会計、情報開示を分けて確認する必要があります。

役員報酬の主な種類

固定報酬

役位や職責に応じて、毎月一定額を支給する報酬です。経営者が安定して職務を遂行するための基礎的な報酬に位置づけられます。税務上は、原則として毎月同額を支給する「定期同額給与」の要件を満たすかが重要です。

業績連動報酬・役員賞与

売上高、営業利益、ROEなどの財務指標や、顧客満足度、従業員エンゲージメント、サステナビリティ目標などの非財務指標に連動させる報酬です。単年度の成果だけに連動すると過度なリスクテイクを促すおそれがあるため、中長期の指標や複数の評価項目を組み合わせることがあります。

株式報酬・ストックオプション

自社株式や新株予約権を交付する報酬です。取締役と株主の利害を共有し、中長期的な企業価値の向上を促す目的で用いられます。譲渡制限付株式、業績条件付き株式、信託を利用する仕組みなど複数の方式があり、発行手続、課税時期、会計処理、希薄化を確認しなければなりません。

退職慰労金

役員の退任時に、在任期間や功績などを考慮して支給する金銭です。退職後に支払う場合でも、職務執行の対価であるため、会社法上の報酬等に含まれます。金額の決定を取締役会へ一任する場合は、株主総会決議に加え、支給基準が明確であるかが重要です。

会社法上の役員報酬の決め方

取締役の報酬

会社法第361条は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価について、定款に定めがない場合は株主総会の決議で定めるとしています。金額が確定している報酬はその額、確定していない報酬は具体的な算定方法、金銭以外の報酬はその具体的な内容を決議します。

実務では、株主総会で取締役全員の報酬総額の上限を決議し、その範囲内で個人別の金額を取締役会に委ねる方法があります。代表取締役へ再一任する場合でも、取締役会が決定方針や評価基準を定め、適切に監督できる仕組みが必要です。

監査役の報酬

監査役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会決議で定めます。総額のみを決議した場合、各監査役への配分は監査役の協議で決めます。監査役の独立性を保つため、取締役会が個人別報酬を決める仕組みではありません。

指名委員会等設置会社の執行役・取締役の報酬

指名委員会等設置会社では、報酬委員会が取締役と執行役の個人別の報酬内容を決定します。報酬委員会は、個人別報酬の決定方針を定め、その方針に従って決定しなければなりません。通常の監査役会設置会社などとは決定機関が異なるため、自社の機関設計を最初に確認します。

役員報酬を決定する実務手順

1.基本方針を定める

企業理念や中期経営計画に照らし、何を報酬で促すのかを明確にします。固定報酬、短期の業績連動報酬、中長期の株式報酬の構成比率も検討します。社外取締役や監査役には監督の独立性が求められるため、業績連動の比率を抑え、固定報酬を中心にする設計があります。

2.報酬水準を検討する

会社規模、業種、職責、採用市場、従業員給与とのバランスを確認します。同業他社の開示資料や報酬調査を参照する場合は、比較対象の規模や役員の権限が自社と合っているかを見ます。相場だけでなく、会社の支払能力と求める責任に応じて決めます。

3.評価指標と算定式を決める

業績連動報酬を導入する場合は、指標、目標値、評価期間、支給上限、計算式を事前に定めます。特殊要因が生じたときの調整権限を設けるなら、行使条件や決定機関も明確にします。曖昧な裁量を残すと、恣意的な支給との疑念を招きます。

4.必要な決議を行う

定款と過去の株主総会議事録を確認し、報酬枠が現在の員数や報酬制度をカバーしているかを点検します。株式報酬を新設する場合は、会社法第361条の報酬決議に加え、株式・新株予約権の発行決議が必要になることがあります。株主総会、取締役会、報酬委員会など、各機関の議事録を残します。

5.支給・開示を管理する

決議内容と給与台帳、会計処理、税務届出を照合します。業績連動報酬は算定根拠を保存し、株式報酬は付与、権利確定、退任時の取扱いまで管理します。上場準備会社では、関連当事者取引や役員貸付金なども含め、役員との金銭関係を一覧化するとよいでしょう。

法人税法上の注意点

法人が役員に支給する給与は、原則として、次のいずれかに該当しなければ損金に算入できません。

  • 定期同額給与:1か月以下の一定期間ごとに支給され、各支給時期の額がおおむね同額である給与
  • 事前確定届出給与:所定の時期に確定額または確定数の株式等を交付する旨を定め、原則として期限までに税務署へ届け出た給与
  • 一定の業績連動給与:客観的な算定方法、上限、決定手続、開示など、法人税法上の要件を満たす給与

これらに該当しても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。事実を隠蔽・仮装して支給した給与も損金不算入となります。

定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始から3か月以内の改定など、認められる時期と理由が限られます。資金繰りが悪化した、業績が予想を下回ったという理由だけで期中に自由に減額できるわけではありません。賞与を支給する場合も、事前確定届出給与の届出額や支給日と実際の支給が異なると、損金算入が認められないことがあります。

税務上の「役員」には、会社法上の役員だけでなく、一定の要件を満たすみなし役員が含まれます。制度を変更する前に、税理士と対象者、決議日、届出期限、支給方法を確認してください。

役員報酬とコーポレートガバナンス

報酬制度には、経営戦略の実行を促す機能と、経営者による自己決定を抑える統制機能の両方が求められます。上場会社では、独立社外取締役を含む任意の報酬委員会を設け、報酬方針、水準、業績評価、個人別支給額を審議する例があります。

委員会を設置するだけでは十分ではありません。構成員の独立性、諮問事項、委員会の権限、取締役会が答申と異なる決定をする場合の扱いを規程で定めます。評価対象となる本人は、自分の報酬を審議する場から退席させるなど、利益相反を管理します。

業績連動報酬には、不正会計や重大な法令違反が判明した場合に未支給分を減額するマルス条項や、支給済み報酬の返還を求めるクローバック条項を設けることもあります。発動事由、対象期間、決定手続、法的実行可能性を具体的に定める必要があります。

上場会社・IPO準備会社の開示と体制整備

金融商品取引法に基づく有価証券報告書では、役員区分ごとの報酬総額、報酬の種類別の総額、対象人数、報酬の決定方針などを開示します。提出会社と主要な連結子会社から受けた報酬等の総額が1億円以上の役員については、個人別の開示も必要です。

コーポレートガバナンス・コードは、取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定する方針と手続を開示し、客観性と透明性のある手続を整えることを求めています。会社法上の事業報告や株主総会参考書類にも報酬に関する記載事項があります。

IPO準備では、次の点を早めに確認します。

  • 定款、株主総会決議、役員報酬規程と実際の支給額が一致しているか
  • 報酬枠を超える支給や、決議のない賞与・退職慰労金がないか
  • 報酬水準と算定根拠を合理的に説明できるか
  • 関連当事者取引を含め、特定役員への利益供与がないか
  • 業績連動報酬や株式報酬の評価・会計・税務処理が適切か
  • 報酬方針、決定手続、開示内容が一貫しているか

役員報酬に関するよくある質問

株主総会では個人別の金額まで決める必要がありますか?

取締役については、株主総会で報酬総額の上限を決議し、個人別の配分を取締役会へ委任する方法が一般に用いられます。ただし、委任先、決定方針、実際の決定手続を明確にしなければなりません。監査役の配分は、総額の範囲内で監査役の協議により決めます。

役員報酬は期中に変更できますか?

会社法上必要な決議を経て変更できる場合でも、法人税法上は期中改定後の給与が定期同額給与に該当せず、損金不算入となることがあります。臨時改定事由や業績悪化改定事由に当たるかを個別に確認してください。

役員退職慰労金も株主総会決議が必要ですか?

退職慰労金も職務執行の対価であるため、定款に定めがなければ株主総会決議が必要です。具体額を取締役会に一任する場合は、株主が判断できる支給基準が整備されているかも確認します。

参考:国税庁「役員に対する給与」

参考:日本取引所グループ「コーポレート・ガバナンス」

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