弁護士とマッチングできます
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
企業法務の用語集
退職給付制度会計とは、従業員へ将来支払う退職一時金や企業年金を、勤務期間に応じて費用・負債として認識する会計処理です。一般には「退職給付会計」と呼ばれます。退職時に支払った金額だけをその期の費用にするのではなく、従業員が働いた各期に退職給付の負担を配分することで、企業の財政状態と期間損益を適切に示します。
日本基準では、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第25号が中心的なルールです。会計処理は制度が確定給付制度か確定拠出制度かによって大きく異なります。
会計基準は、一定期間にわたる労働の提供などを理由として、退職後に支給される給付を対象とします。主な対象は次のとおりです。
ただし、役員退職慰労金は、株主総会の決議や報酬委員会の決定を要するため、原則として退職給付会計基準の適用範囲に含まれません。従業員と役員を兼ねる人については、従業員としての給付と役員としての給付を分けて確認する必要があります。
| 項目 | 確定給付制度 | 確定拠出制度 |
|---|---|---|
| 給付額 | 規約や退職金規程の算定方法により決まる | 掛金と運用成果により決まる |
| 運用リスク | 主に企業が負う | 主に加入者が負う |
| 会計処理 | 退職給付債務と年金資産を見積もり、積立状況を会計処理する | 企業が負担すべき掛金を費用処理する |
| 計算の特徴 | 割引率、退職率、死亡率などの見積りが必要 | 通常は複雑な数理計算を要しない |
確定給付制度では、将来の給付額を見積もって現在価値に割り引くため、計算が複雑になります。一方、確定拠出制度では、当期に負担する掛金を退職給付費用として処理するのが基本です。
退職給付債務とは、従業員がこれまでに提供した労働に対応する将来の退職給付見込額を、現在価値へ割り引いた金額です。給付見込額を各期に帰属させる方法には、期間定額基準と給付算定式基準があります。
年金資産とは、企業年金制度の給付に充てるため、企業外部に積み立てられた資産のうち一定の要件を満たすものです。期末の公正な評価額を退職給付債務から控除し、制度の積立状況を算定します。企業が自由に事業資金として使える資産ではありません。
勤務費用は、従業員が当期に働いたことで新たに発生した退職給付債務です。利息費用は、期首の退職給付債務に割引率を掛けて計算し、支給時期が1年近づいたことによる債務の増加を表します。
期待運用収益は、期首の年金資産に長期期待運用収益率を掛けて見積もる収益です。退職給付費用の計算では費用から控除します。実際の運用収益との差は、数理計算上の差異の一因になります。
数理計算上の差異は、割引率などの計算前提と実績のずれや、計算前提の変更によって生じる差額です。過去勤務費用は、退職給付制度の改訂により、それ以前の勤務に対応する退職給付債務が増減したときに生じます。個別財務諸表と連結財務諸表では未認識額の扱いが異なるため、区別して処理します。
割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎に決定します。割引率が下がると、一般に退職給付債務は増加します。退職率や昇給率も計算結果へ影響するため、実績とのずれを定期的に確認し、合理的な前提を用いる必要があります。
確定給付制度では、退職給付債務から年金資産を控除した積立状況を基礎として、貸借対照表に退職給付に係る負債または資産を計上します。退職一時金制度のように外部の年金資産がない場合は、退職給付債務を基礎に負債を認識します。
当期の退職給付費用は、勤務費用、利息費用、期待運用収益、数理計算上の差異や過去勤務費用の費用処理額などから算定します。連結財務諸表では、未認識の数理計算上の差異と未認識の過去勤務費用を税効果調整後に「退職給付に係る調整累計額」としてその他の包括利益累計額に計上します。個別財務諸表では、未認識項目を貸借対照表に即時認識しない取扱いが続いています。
退職給付債務を高い信頼性で数理計算するには、一定数の従業員データが必要です。このため、退職給付債務の計算対象となる従業員が原則300人未満の小規模企業等では、簡便法を利用できます。複数の退職給付制度がある場合は、制度ごとに適用可否を判断します。
簡便法では、期末要支給額を基礎に退職給付債務を見積もる方法など、企業の実態から合理的と判断できる方法を選択します。いったん選んだ方法は原則として継続して適用します。従業員数が一時的に300人を下回っただけで直ちに簡便法へ変更するのではなく、将来の従業員規模も踏まえて判断することが必要です。
計算には、年齢、勤続年数、給与、退職事由、給付実績などの正確なデータが欠かせません。人事部門、経理部門、年金担当部門で基準日や対象者の範囲をそろえ、入退社や制度変更を漏れなく反映します。
退職金規程の変更、DBから企業型DCへの移行、早期退職募集などは、通常の年度末計算とは異なる会計処理が必要になることがあります。法務・人事部門が制度変更を決めた後に経理部門へ連絡するのではなく、検討段階から会計上の影響を試算しましょう。
割引率、退職率、昇給率、長期期待運用収益率の根拠を資料として残します。前年から変更した場合は、変更理由と金額への影響も確認します。外部の年金数理人へ計算を委託していても、前提の妥当性を判断し、財務諸表を作成する責任は企業にあります。
有価証券報告書や計算書類では、採用する退職給付制度、退職給付債務、年金資産、費用の内訳、数理計算上の計算基礎などについて開示が必要になる場合があります。財務諸表、注記、退職給付計算報告書の数値が一致しているかを確認してください。上場準備における会計・内部統制上の論点は「上場(IPO)の準備マニュアル|流れ・失敗する会計リスク・内部統制整備対策について」も参考になります。
退職給付会計は、将来の支払いを現時点の財務諸表に反映するための仕組みです。退職給付制度の内容、人事データ、年金資産、数理計算上の前提が連動するため、経理部門だけでは完結しません。人事、法務、財務、外部専門家が情報を共有し、決算前に変更点を洗い出す体制を整えることが重要です。