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企業法務の用語集
年俸制とは、1年分の賃金額をあらかじめ決め、その額を各月に分けて支払う制度です。年単位で賃金を定める点が月給制と異なりますが、労働基準法上の賃金・労働時間のルールが適用されなくなるわけではありません。
年俸制は成果や役割を処遇に反映しやすい一方、評価方法や残業代の扱いが曖昧だと、従業員との認識違いや未払い賃金の問題につながります。導入時は、年俸の内訳と改定手続きを就業規則や雇用契約書で具体的に定めることが重要です。
年俸額は、職務内容、役割、能力、前年度の評価など、会社が定めた基準に沿って決定します。もっとも、年俸額を年1回まとめて支払うことはできません。労働基準法24条は、賃金を毎月1回以上、一定の期日に支払うことを原則としているためです。
実務では、年俸を12分割して毎月支払う方法のほか、年俸の一部を賞与月に配分する方法があります。たとえば年俸600万円を12分割すれば、月額は50万円です。賞与相当分を含めて14分割する設計も可能ですが、分割方法、毎月の支給額、賞与部分の扱いを労働条件通知書や雇用契約書に明示しておく必要があります。
月給制は月単位で基本給などを定めるのに対し、年俸制は年間の賃金総額を基準にします。ただし、年俸制でも給与は毎月支給され、所得税や社会保険料も各月の給与から控除されるため、日常の給与計算がなくなるわけではありません。
また、年俸制だから必ず成果主義になるとは限りません。年俸額を何に基づいて決めるかは、会社の評価制度と賃金規程によります。制度設計では、目標の難易度、評価期間、評価者、昇給・減給への反映方法をそろえて定めることが欠かせません。
年俸制を採用しただけでは、残業代の支払い義務はなくなりません。法定労働時間を超えて働かせた場合は、労働基準法37条に基づき、原則として割増賃金を支払います。「年俸に残業代を含む」とだけ記載しても、残業代の範囲が明確とはいえません。
固定残業代を年俸に含める場合は、少なくとも次の事項を明確にしておく必要があります。
会社は実労働時間を把握し、固定残業代で不足する月には差額を支払わなければなりません。管理職という肩書があるだけで残業代の対象外になるわけでもなく、労働基準法41条の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するかは、職務内容や権限、勤務態様、待遇などの実態から判断されます。
参考:厚生労働省「年俸制の場合には、何時間残業しても割増賃金はもらえないのですか。」
賞与が年俸に含まれるか、年俸とは別に支給されるかは会社の制度によって異なります。年俸の一部を賞与月に支払う場合、その部分は会社業績に応じて自由に減らせる賞与とは限りません。確定した年俸の一部として約束しているなら、支給条件に沿った取り扱いが必要です。
欠勤や遅刻に対して賃金を控除できるかは、就業規則や賃金規程の定めによります。年俸制であっても、ノーワーク・ノーペイの考え方に基づく控除はあり得ます。控除の対象と計算方法を事前に明示し、恣意的に運用しないことが大切です。
年度途中で入社または退職した場合、通常は在籍期間や勤務実績に応じて賃金を計算します。「年俸」と呼んでいても、残り期間分まで当然に支払う制度ではありません。日割り・月割りの計算方法は賃金規程に定めておくと、精算時の紛争を防ぎやすくなります。
翌年度の年俸を見直す場合でも、会社が無条件に減額できるわけではありません。個別合意で労働条件を変更する場合は、従業員が変更内容を理解したうえで自由な意思により同意したかが問題になります。
就業規則の変更によって一律に不利益な条件へ変える場合は、労働契約法9条・10条を踏まえ、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などから合理性を検討しなければなりません。減額率だけで適法性を判断することはできないため、評価根拠を記録し、事前説明と協議の機会を設けることが重要です。
既存の月給制から年俸制へ変更し、従業員に不利益が生じる可能性がある場合は、就業規則の変更手続きと労働契約法上の合理性を慎重に検討してください。
なりません。年俸制でも法定労働時間を超えれば、原則として割増賃金が発生します。固定残業代を導入していても、設定時間を超えた分は追加支給が必要です。
制度名だけでは判断できません。基本給、固定残業代、賞与、評価による増減、退職金の有無まで含めて比較する必要があります。特に、提示された年俸のうち固定残業代がいくらなのかを確認してください。
会社の規程や契約によります。年俸を分割して賞与月に支払う場合と、年俸とは別に業績連動賞与を設ける場合があります。名称ではなく、支給条件と金額の決め方を確認しましょう。
年俸制は、年間の賃金額を先に定め、毎月に分けて支払う制度です。導入しても、毎月払いの原則や割増賃金のルールは変わりません。企業は、年俸の内訳、評価基準、賞与や固定残業代の扱い、年俸改定の手続きを明文化し、従業員へ具体的に説明する必要があります。大幅な減額や残業代をめぐる紛争が懸念される場合は、実施前に労務に詳しい弁護士へ相談するとよいでしょう。