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企業法務の用語集
役員退職慰労金とは、取締役や監査役などが退任したときに、在任中の職務や功績に対して会社が支給する金銭です。「役員退職金」と呼ばれることもあります。法律上の定義や一律の支給額はなく、会社の定款、役員退職慰労金規程、株主総会決議などに基づいて支給します。
従業員の退職金は、就業規則や退職金規程などに支給条件が定められていれば、労働契約上の賃金として扱われます。一方、取締役の退職慰労金は職務執行の対価に当たり、会社法上の報酬等として所定の決定手続が必要です。
役員が退任したという事実だけで、当然に会社へ支給を請求できるわけではありません。会社側も、規程に計算式があることだけを理由に手続を省略しないよう注意が必要です。
取締役の報酬等について定款に定めがない場合は、株主総会の決議で定めます。退職慰労金も在任中の職務執行の対価として支給するため、この手続の対象です。
株主総会で支給額を直接決める方法のほか、一定の条件を示したうえで、具体的な金額の決定を取締役会へ委ねる方法も用いられます。委任する場合は、役員退職慰労金規程の内容、計算基準、取締役会へ委ねる事項を株主が判断できる形に整えてください。
監査役の報酬等も、定款に定めがなければ株主総会の決議で定めます。複数の監査役がいる場合に各人の金額を決める手続は、取締役とは異なります。監査役の独立性を損なわないよう、会社法第387条に沿って処理しましょう。
支給の予測可能性を高め、恣意的な決定を避けるため、規程には少なくとも次の項目を定めます。
不祥事が退任後に判明した場合を想定し、支給前の減額・不支給や、支給後の返還請求に関する条項を設けることも考えられます。条項を置くだけで自由に減額や返還請求ができるわけではないため、対象行為、判断手続、減額幅を具体化しておくことが大切です。
役員退職慰労金の計算方法は法律で決まっていません。実務では、退任時の報酬月額に在任年数と役位別の功績倍率を掛ける方法が知られています。
役員退職慰労金の例
最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率 + 功労加算
この算式はあくまで一例であり、計算結果が自動的に会社法上・税務上の適正額になるわけではありません。職務内容、退任事情、会社の業績、同業・同規模会社の支給状況なども踏まえて検討します。功労加算を行う場合は、具体的な貢献と算定根拠を議事録に残しましょう。
法人が退職した役員へ支給する退職金は、在任期間、退職事情、同業・同規模会社の支給状況などから相当と認められる金額であれば、原則として金額が具体的に確定した事業年度の損金に算入されます。不相当に高額な部分は損金に算入できません。
株主総会決議で具体額を取締役会へ委任した場合は、取締役会で金額が確定する時期が会計・税務処理に影響します。決議日、退任日、支給日、損金経理した事業年度が一致しない場合は、税理士と確認してください。
参考:国税庁|使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金
退職に伴って支給される役員退職慰労金は、要件を満たせば退職所得として扱われます。ただし、制度を廃止したという理由だけで、在職中の役員へ打切支給しても、退職の事実や退職に準ずる分掌変更がなければ給与所得と扱われる場合があります。
また、役員等勤続年数が5年以下の「特定役員退職手当等」には、退職所得の金額を計算する際の2分の1課税が適用されません。役員としての勤続年数と、従業員として勤務していた期間を区別して確認する必要があります。
参考:国税庁|役員退職慰労金制度の廃止による打切支給の取扱い
制度を廃止する企業では、過去の在任期間に対応する慰労金をどのように扱うかが問題になります。廃止時点で金銭を支給する方法、退任時まで支給を繰り延べる方法、別の報酬制度へ移行する方法などが考えられます。
在職中に打切支給すると、株主総会で「退職慰労金」と決議しても、税務上は退職所得にならない場合があります。制度廃止の決議と同時に支給方法、対象期間、将来の退任時に重複計算しない仕組みを定め、会計・税務処理を確認しましょう。
上場会社では、報酬制度の客観性・透明性や、中長期的な業績との連動も重要です。退任時にまとまった金銭を支払う制度から、業績連動報酬や株式報酬へ移行する場合は、会社法上の決議、開示、会計・税務の各論点をまとめて検討します。
参考:金融庁|コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について
M&Aや事業承継では、オーナー役員の退任と役員退職慰労金の支給を同時に検討することがあります。買収価格とは別に会社から支給する場合、会社の現預金や純資産が減り、取引条件にも影響します。
売主個人が受け取る株式譲渡代金と役員退職慰労金では課税関係が異なります。税負担だけを目的に金額を振り分けず、退任の事実と在任中の貢献に対応する合理的な根拠を用意してください。
役員が退任すれば当然に支払義務が生じるわけではありません。定款、株主総会決議、規程、過去の決定手続などを確認し、会社法に沿って支給を決めます。
法律上の一律の相場はありません。会社規模、役位、在任年数、職務、功績、同業会社の支給状況などで異なります。税務上も、不相当に高額な部分は損金算入が認められません。
委任の仕方によって判断が異なります。株主が支給基準を把握できるよう、規程や計算基準を整え、総会議案と参考書類に必要な情報を記載します。監査役については取締役とは異なる決定手続があるため、同じ扱いにしないでください。
役員退職慰労金は、株主総会決議をすればすべて解決するものではありません。支給根拠、計算額、決定機関、議事録、損金算入時期、受給者側の所得区分を一連の手続として確認する必要があります。高額な支給や支配株主への支給、M&Aに伴う支給では、決議前に弁護士と税理士へ相談するとよいでしょう。