用語集

企業法務の用語集

お気に入り追加

人材投資促進税制

読み: じんざいとうしそくしんぜいせい 

人材投資促進税制とは、企業が従業員の教育訓練に支出した費用に着目して、法人税や所得税の負担を軽減する制度の通称です。過去には教育訓練費を基準とする独立した税制があり、その後は賃上げ促進税制の教育訓練費上乗せ措置として運用されてきました。

2026年度税制改正により、法人向けの教育訓練費上乗せ措置は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から廃止されました。そのため、現在「人材投資促進税制」という名称だけを見て、教育訓練費による上乗せを利用できると判断するのは危険です。法人・個人の別、企業区分、対象となる事業年度または年を確認する必要があります。

人材投資促進税制とは

「人材投資促進税制」は、一つの現行制度の正式名称として常に同じ内容を指す言葉ではありません。2005年度に創設された教育訓練費を対象とする税制や、後年の所得拡大促進税制・賃上げ促進税制に設けられた教育訓練費の上乗せ措置を指して使われてきました。

近年の仕組みでは、一定の賃上げ要件を満たした企業が、給与等支給額の増加額に対する税額控除を受け、そのうえで教育訓練費の増加要件を満たすと控除率が加算されていました。教育訓練費そのものの一定割合を直接控除する仕組みではなく、賃上げ促進税制の控除率を上乗せする仕組みだった点に注意が必要です。

2026年度税制改正後の扱い

企業区分2026年度改正後の主な扱い
全法人向け2026年3月31日をもって賃上げ促進税制の措置を廃止
中堅企業向け賃上げ要件を見直して一定期間継続するが、教育訓練費上乗せは廃止
中小企業向け賃上げに関する基本措置などは維持されるが、教育訓練費上乗せは廃止

法人については、2026年4月1日以後に開始する事業年度から教育訓練費上乗せを利用できません。3月決算法人であれば、2026年4月1日開始事業年度から廃止後の取扱いになります。決算期が異なる法人は、適用対象となる事業年度の開始日を確認してください。

個人事業主については法人と適用時期の表現が異なり、中小企業庁の2026年4月1日更新の案内では、教育訓練費上乗せを利用可能な期間として2025年・2026年が示されています。法人の改正内容をそのまま個人事業主へ当てはめず、申告する年分の最新資料を確認する必要があります。

改正前の教育訓練費上乗せ措置

2024年度税制改正後の制度では、賃上げ要件を満たす法人について、教育訓練費が前年度より一定割合増加した場合に税額控除率を加算する仕組みがありました。主な上乗せは次のとおりです。

区分教育訓練費の増加要件控除率の上乗せ
全法人向け前年度比10%以上増加など5%
中堅企業向け前年度比10%以上増加など5%
中小企業向け前年度比5%以上増加など10%

実際の適用には、教育訓練費の増加だけでなく、給与等支給額の増加要件、控除上限、対象事業年度などの条件を満たす必要がありました。上表は改正前の概要であり、2026年4月1日以後に開始する法人の事業年度には適用されません。

教育訓練費に含まれていた費用

改正前の上乗せ措置で対象となる教育訓練費は、国内雇用者の職務に必要な技術や知識の習得・向上のために支出した一定の費用です。代表例は次のとおりです。

  • 外部講師へ支払う講師料や謝金
  • 外部講師の招聘に伴い会社が負担する一定の旅費
  • 研修のために借りる会議室・設備の使用料
  • 外部の研修機関へ支払う受講料
  • 業務に必要な資格・検定試験の受験料を会社が負担した費用
  • 研修用の教材費
  • 一定のeラーニングや通信教育の受講費

名称が「研修費」であればすべて対象になるわけではありません。対象者、支払先、訓練内容、費用の性質を確認する必要があります。

教育訓練費に含まれない主な費用

  • 自社の役員や従業員が社内講師をした場合の人件費
  • 研修を受ける従業員の給与や手当
  • 研修参加者の交通費・宿泊費
  • 教育訓練と直接関係しない福利厚生費
  • 業務に必要な知識・技術と関係のない講座
  • 会社が負担していない、従業員個人の支出
  • 資産計上される設備・備品の取得費

社内OJTも、実施したという事実だけで対象費用になるわけではありません。外部講師や外部施設など対象となる支出があるかを、公式ガイドブックの定義に沿って確認します。

対象者を確認する際のポイント

改正前の制度では、対象となる教育訓練を受ける人は国内雇用者であることが基本でした。法人の役員、役員と特殊な関係にある人、使用人兼務役員などは対象外となる場合があります。また、研修を提供した外部講師が自社の役員・使用人である場合も、支払費用の扱いが異なります。

グループ会社の従業員、派遣労働者、内定者、個人事業主などへの研修費は、一律に判断できません。雇用関係と費用負担を確認し、対象年度の手引きに照らして判定します。

税額控除を受けるために必要だった記録

教育訓練費上乗せを適用する場合、教育訓練の実施時期、内容、対象者、費用、支払先などを明らかにする書類を作成・保存する必要がありました。実務では次の資料を整理します。

  • 研修名と実施目的
  • 実施年月日と期間
  • 研修内容・カリキュラム
  • 受講者の氏名または人数
  • 講師・研修機関の名称
  • 請求書、領収書、契約書
  • 対象費用と対象外費用を区分した計算表
  • 前年度の教育訓練費との比較表
  • 法人税申告書の別表・明細

会計上の研修費勘定と、税制上の教育訓練費は必ずしも一致しません。旅費や会場費など一つの請求書に複数の費用が含まれる場合は、対象部分を区分できる資料を残します。

賃上げ促進税制との関係

教育訓練費上乗せの廃止後も、中小企業向け賃上げ促進税制など、給与等支給額の増加を基準とする措置が残る場合があります。2026年度改正後、中小企業向けの基本的な控除率は、雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増加した場合は15%、2.5%以上増加した場合は30%とされています。

子育てとの両立支援や女性活躍に関する認定を受けた企業への上乗せ措置は維持されています。教育訓練費上乗せが廃止されたからといって、賃上げ促進税制全体がすべての企業で同時に廃止されたわけではありません。

中小企業向けには、一定の要件のもとで、控除しきれなかった金額を5年間繰り越す仕組みもあります。ただし、繰越税額控除を使う年度にも給与等支給額に関する要件があるため、申告時に確認が必要です。

人材育成で検討できるほかの支援制度

人材開発支援助成金

厚生労働省の人材開発支援助成金は、事業主が従業員へ職務に関連する訓練を行った場合などに、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど、目的に応じたコースがあります。

税額控除と助成金は仕組みが異なります。計画届の提出時期、対象訓練、支給要件、併用時の費用計算を確認し、研修を始める前に手続を進めます。

教育訓練給付制度

教育訓練給付は、一定の要件を満たす労働者や離職者が、厚生労働大臣指定の教育訓練を受講・修了した場合に、本人へ費用の一部を支給する制度です。企業が法人税から控除を受ける人材投資促進税制とは、対象者と給付先が異なります。

企業が現在行うべき確認

  1. 対象年度を確認する:法人は事業年度の開始日、個人事業主は対象年分を確認します。
  2. 企業区分を判定する:資本金だけでなく、常時使用する従業員数や大規模法人との関係なども確認します。
  3. 利用できる措置を切り分ける:教育訓練費上乗せ、賃上げの基本控除、認定による上乗せ、繰越控除を分けます。
  4. 給与等支給額を集計する:対象となる雇用者と給与の範囲を公式資料に沿って整理します。
  5. 証憑を保存する:過年度に教育訓練費上乗せを使う場合は、研修内容と支出を示す資料を保管します。
  6. 申告前に最新情報を確認する:国税庁、財務省、中小企業庁の資料と申告書様式を確認します。

税制改正への社内対応

教育訓練費上乗せを前提に研修予算を組んでいた企業は、2026年4月1日以後に開始する事業年度の税効果を見直す必要があります。研修そのものを縮小するかどうかは、税額控除だけで決めず、人材不足、技能承継、離職防止、生産性向上などの効果を含めて判断します。

経理部門だけでなく、人事部門と連携し、研修計画、給与計画、認定取得、助成金の利用可能性を確認します。制度名が似ている資料を混在させないよう、対象年度ごとに計算ファイルと根拠資料を分けて保存するとよいでしょう。

人材投資促進税制に関するよくある質問

2026年度も教育訓練費の上乗せを使えますか?

法人については、2026年4月1日以後に開始する事業年度から廃止されています。それより前に開始した事業年度や個人事業主では適用時期が異なるため、事業年度・年分を確認してください。

教育訓練費を増やせば、その費用の一定割合が戻りますか?

改正前の教育訓練費上乗せは、教育訓練費の一定割合を直接還付する制度ではありません。賃上げ促進税制の要件を満たした企業について、給与等支給増加額に対する税額控除率を加算する仕組みでした。

社内研修で従業員が講師をした場合、その給与は対象ですか?

改正前の上乗せ措置でも、自社の役員・従業員へ支払う給与は、一般に対象となる教育訓練費には含まれません。外部講師への謝金や外部研修の受講料など、対象となる費用を区分します。

eラーニングの利用料は対象ですか?

対象事業年度に旧制度を適用する場合、職務に必要な知識・技術の習得を目的とする一定のeラーニング費用は対象になり得ます。一般的な福利厚生サービスと一体になった料金などは、対象部分を合理的に区分できるか確認が必要です。

助成金を受けた研修費も教育訓練費へ含められますか?

助成金などで補填される金額がある場合、教育訓練費や税額控除の計算へ影響することがあります。対象年度の公式ガイドブックと助成金の併給調整を確認し、二重に優遇を受ける計算にならないよう注意します。

参考:国税庁「中堅企業向け賃上げ促進税制」

参考:経済産業省「賃上げ促進税制」

【関連記事】

人事と労務って実は違う?では何が違うのか?

人事労務の悩みに関して弁護士に相談できる事と社労士に相談できる事との違い

給与計算を社労士事務所にアウトソーシングするとき事務所を選ぶ基準は?

関連用語集

36協定 ARCSモデル BPO CDP CSR IFRS T型人材 アクティブレスト アセスメントセンター アダプティブラーニング アルハラ イノベーション インクルージョン インディペンデント・コントラクター イントラプレナー インバスケット・トレーニング インフルエンサー採用 ウォームシェア ウォームビズ エクスパッツ エグゼクティブ・サーチ オフショアリング オーセンティック・リーダーシップ カスタマーハラスメント対策 カフェテリアプラン カーブアウト キャッシュ・バランス・プラン キャリアパス ギャップイヤー クロスファンクショナルチーム グリーン雇用 グローバル人事 ケースメソッド コンピテンシー コンプライアンス コース別人事制度 コーチング コーピング コーポレートガバナンス サクセッション・プラン サテライトオフィス サバティカル休暇 サラリーマン法人化 サードプレイス サーバントリーダー サービス残業 シェアードサービス シャドウワーク ジェンダーギャップ指数 ジェンダーフリー ジュニアボード制 ジョブシャドウイング ジョブホッピング ジョブローテーション ジョブ・カード ジョブ・ディスクリプション ジョブ・リターン制度 ストックオプションとは ストライキ スローキャリア セカンドキャリア タレント・マネジメント ダイバーシティ チームビルディング テレワーク ディーセント・ワーク デジタルネイティブ デュアル・システム トライアル雇用 トータル人事制度 ナレッジマネジメント ハインリッヒの法則 ハッピーリタイア ハロー効果 バランス・スコアカード バーチャルデータルーム パフォーマンス・デベロップメント パートタイム・有期雇用労働法(旧パートタイム労働法) ホワイトカラーエグゼンプション ポイント制退職金制度 ポジティブ・アクション ポテンシャル採用 マイスター制度 マザーズハローワーク ミドル・マネジメント メンター制度 モラルハラスメント モラールサーベイ ラーニング・オーガニゼーション リスケ レガシーコスト ワークシェアリング ワークショップ ワークプレイスラーニング ワーク・ライフ・バランス ワールド・カフェ 一時帰休 三角合併 不定愁訴 中小企業基盤人材確保助成金 二重派遣 人事システム 人事デューデリジェンス 人事考課 人材市場価値 人材投資促進税制 人気企業ランキング 介護基盤人材確保助成金 企業内大学 企業年金制度 休み方改革 休暇分散化 個人情報保護法 個人請負労働者 個別労働紛争解決制度 偽装請負 公務員の身分保障 内部統制 分離課税 初回雇用契約 助成金 労働基準法 労働契約法 労働施策総合推進法(旧雇用対策法) 労働災害 労働生産性 労働者派遣法 同一価値労働同一賃金 国会議員年金 国家公務員の給与 在宅勤務 地域限定型採用 変形労働時間制 多面評価制度 定年後再雇用 定期昇給制度 家族手当 就業率 就業規則 就職内定率 市場化テスト 希望留年制度 年俸制 年功制 年金改革 役割等級制度 役員退職慰労金 役職定年制 従業員満足 抜擢人事 教育訓練給付金 整理解雇の四要件 日雇い派遣 早期退職制度 春闘 時短促進法 最低賃金 服務規律 業績連動型賞与制度 次世代リーダー育成 次世代法 次世代育成支援 法定外補償制度 源泉徴収 環境教育 産業カウンセラー 発明対価 益金不算入 監査法人 看護休暇 睡眠負債 知的財産権 短時間正社員制度 確定拠出年金 社会人基礎力 社会保険労務士 社内公募制度・社内FA制度 社外取締役 社外監査役 競業避止義務 簿外債務 粉飾決算 紹介予定派遣 経済連携協定 継続雇用制度 継続雇用定着促進助成金 職務給・役割給 職種別賃金 職能資格制度 育休切り 育児介護休業法 自己申告制度 衛生要因・動機付け要因 裁判員休暇 裁量労働制 複線型人事制度 要員計画 証券取引等監視委員会 試用期間 転進支援制度 退職勧奨 退職年金制度 退職給付制度会計 通年採用 過労死 配偶者同行制度 間接差別 障害者雇用 障害者雇用率 隠れ失業者 集中ボーナス 雇用調整助成金 高学歴ワーキングプア 高年齢者等共同就業機会創出助成金 高年齢者雇用安定法
貴社の課題解決に最適な
弁護士とマッチングできます
契約書の作成・レビュー、機密性の高いコンフィデンシャル案件、M&A/事業承継など、経営者同士でも話せない案件も、
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
弁護士の方はこちら